国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した最新データによると、キプロスの羊飼養数は1960年代から長期的に見て大きな変動を経てきました。特に1974年から1975年にかけて急激な減少が見られ、その後徐々に回復しつつも1990年代には再び減少傾向が顕著になりました。一方、2000年代以降にはある程度安定した水準で推移し、2021年には約35万匹に達しました。このような長期的な推移の背景には、キプロスにおける地政学的リスクや農業政策、経済状況等の影響が考えられます。
キプロスの羊飼養数推移(1961-2022)
年度 | 飼養数(匹) |
---|---|
2022年 | 343,400 |
2021年 | 350,550 |
2020年 | 326,330 |
2019年 | 323,240 |
2018年 | 310,988 |
2017年 | 321,488 |
2016年 | 304,187 |
2015年 | 296,857 |
2014年 | 322,400 |
2013年 | 313,458 |
2012年 | 346,836 |
2011年 | 355,944 |
2010年 | 328,864 |
2009年 | 300,200 |
2008年 | 267,308 |
2007年 | 259,400 |
2006年 | 272,192 |
2005年 | 268,574 |
2004年 | 278,984 |
2003年 | 264,552 |
2002年 | 294,000 |
2001年 | 296,600 |
2000年 | 246,000 |
1999年 | 233,000 |
1998年 | 240,000 |
1997年 | 250,000 |
1996年 | 252,000 |
1995年 | 253,000 |
1994年 | 255,000 |
1993年 | 275,000 |
1992年 | 285,000 |
1991年 | 295,000 |
1990年 | 310,000 |
1989年 | 300,000 |
1988年 | 310,000 |
1987年 | 325,000 |
1986年 | 325,000 |
1985年 | 334,000 |
1984年 | 325,000 |
1983年 | 315,000 |
1982年 | 310,000 |
1981年 | 300,000 |
1980年 | 295,000 |
1979年 | 275,000 |
1978年 | 280,000 |
1977年 | 255,000 |
1976年 | 225,000 |
1975年 | 210,000 |
1974年 | 430,000 |
1973年 | 480,000 |
1972年 | 460,000 |
1971年 | 435,000 |
1970年 | 415,000 |
1969年 | 405,000 |
1968年 | 390,000 |
1967年 | 380,000 |
1966年 | 400,000 |
1965年 | 420,000 |
1964年 | 430,000 |
1963年 | 410,000 |
1962年 | 420,000 |
1961年 | 410,000 |
キプロスの羊飼養数は1961年の41万匹から1973年には約48万匹まで増加し、比較的好調な推移を見せていました。しかし1974年のキプロス危機による政治的、経済的混乱の影響で翌1975年にその数は約21万匹にまで急減しました。この減少は地域衝突によって牧草地が失われたこと、移民や避難を強いられた住民たちが農業活動を続けることが難しくなったことによると考えられます。
1970年代後半から1980年代にかけては、緩やかな回復を見せ、35万匹近くにまで飼養数が戻りましたが、それでも前半の水準には達していませんでした。1990年代には環境保護施策の強化や土地利用の変化が影響し、飼養数は再び低下、1999年には23万3千匹まで減少しました。2000年代から近年にかけては、EUへの加盟(2004年)に伴う農業支援などによる影響から、再び増加基調を取り戻しつつあります。2021年には約35万匹を記録しましたが、その後には若干の減少傾向も見られます。
このデータから、キプロスの羊飼養数は歴史的な政治的混乱や地政学的な問題、さらには環境政策や農業支援プログラムなどによる影響を大きく受けてきたことが分かります。特に1974年の減少はキプロスの近代史でも大きな節目となった出来事に強く関連していると言えるでしょう。また、近年は環境意識の高まりや農業形態の多様化を背景に、羊飼育そのものが収益性だけでなく環境や社会資本としての役割にシフトしています。
将来的な課題として、キプロスの羊飼養業を安定的に維持発展させるためには、気候変動への適応策が急務です。地中海気候の特性により、干ばつや水資源の枯渇が頻発するリスクがあるため、干ばつ耐性の高い牧草品種の導入や水資源の効率的な管理が重要となるでしょう。また、EUを通じた国際協力により、サステナブルな農業技術や温室効果ガス排出削減のための支援を受けることが有効です。
さらに、羊の飼養はキプロスの国内食文化や産業にとって欠かせない部分であるため、ローカルブランドの確立と輸出拡大が新たな経済機会を生む可能性があります。具体的には、羊乳製品(特にハルーミチーズ)の輸出拡大や観光資源としての伝統的牧畜文化の活用が挙げられます。
キプロスの羊飼養数を安定させるためには、農業政策の柔軟性を持たせることに加え、地政学的な安定を追求する取り組みも欠かせません。また、新型コロナウイルスの影響で一時的に輸出入に関する障害がありましたが、その経験を活かし国内の供給網をさらに強化することが求められるでしょう。これらの具体的な施策を通じて、持続可能かつ安定した地域農業を築いていくことが鍵となります。